行動(故意)によるヒューマンエラーの種類

故意とは、作業者は正しい作業を分かっていながら、あえて正しくないことをやってしまうことです。
この故意によるヒューマンエラーが発生する要因と対策を以下の表にまとめました。

内容 対策
1.権威による圧力  圧力をかけない
2.手順が合理的でない  手順の見直し
3.あせり  急がせない
4.マニュアルの形骸化  意味を教育

 
以下に具体的に紹介します。
 

1.権威による圧力

業務を一緒に行うメンバーの間に強い上下関係があり、上位のものが権威・権力で有言・無言の圧力をかけると、下位のものは上位のものの間違いや問題点を指摘できず、その結果事故が生じてしまいます。

 

  • 事例1 燃料切れに気がつかずに墜落

1978年オレゴン州ポートランド付近で、空港まであと6マイルのところで、ユナイテッドDC8機が燃料切れのため墜落しました。

この機は車輪のトラブルで胴体着陸を考えざるを得なくなり、飛行時間が予定より長くなって燃料が不足してしまいました。しかし機長は、車輪が出ているかどうかのチェックと、胴体着陸となった際の手順の検討に没頭してしました。そのため、燃料が少なくなっていることへの注意が疎かになっていました。
 
他のクルーメンバー(副操縦士、航空機関士)は燃料不足の危険を機長に助言したものの、上記の判断に没頭している機長の行動を変えることができませんでした。その結果着陸態勢に入った時に燃料がつきてしまい墜落、乗客及び乗員189人の内、10人が死亡しました。

この事故がきっかけとなり、「パイロットのコミュニケーションと協力についての訓練、如何にチームとして働くかの教育」が始まりました。今日では、このCRM(クルー・リソース・マネジメント、乗務員資質管理)は航空業界の規範となっています。
 

  • 事例2 スペースシャトル チャレンジャーの事故

事故の1年前、MT社のボイジョリーは別のシャトルの打ち上げ後の検査で、ブースターのOリングから燃焼ガスが漏れていたことを発見しました。
 
彼は上司に「打ち上げ時の気温が低かったためシール効果が低下した」という仮説を説明しました。チャレンジャー打ち上げ前日、ボイジョリーは-8℃という天気予報におどろき、ルンド副社長に打ち上げ延期を進言しました。副社長はこれを受け入れ、MT社とNASAはテレビ会議を開きました。
 
ボイジョリーは「気温12℃以下では打ち上げるべきではない。」と述べました。しかし上級副社長メイソンはルンド副社長に「君は技術者の帽子を脱いで経営者の帽子をかぶりたまえ」と命じました。

NASAは打ち上げ準備を再開し、そして……。
 
悪魔の代弁者 あえて異論を唱える
悪魔の代弁者(devil advocate)とは、「故意に反対の立場を取る人、意地悪くあら探しをする批評家」です。

自分の意見を通したい依怙地な考えや感情ではなく、自分の意に反してでも、「意図的に(あえて)」異論を述べる人のことです。つまり、「悪魔」というより、「良心」の代弁者と呼ぶほうがふさわしいかもしれません。

議論を好む欧米では、自らの論理展開の妥当さを確認するために、あえて悪魔の代弁者的な役割を相手に期待することがあります。集団的浅慮やリスキーシフトから逃れ、決定内容の質を高めるからです。

しかし、日本は同質性への圧力が強く、しかも、議論や対決を好まない文化があります。そのため悪魔を「異物として排除」してしまい、悪魔の「自然な」出現はあまり期待できません。
 

2.手順が合理的でない

人は最も楽で合理的な方法を自然に選択します。例えば、公園の芝生を斜めに横切るルートが最短であれば多くの人がそこを通り、芝生ははげてしまいます。この場合の最良の解決方法は、最短ルートを通れるようにしてしまうことです。

 

  • 事例1 運転者と助手席の同乗者に強制的にシートベルトを付けさせる

乗員のことを考えれば、自動車のシートベルトは必ず付けさせるべきです。しかしシートベルトを付けないと全く動かないような車にしてしまうと、顧客からクレームが増えてしまいます。あるいは勝手に改造して安全装置を無効にする顧客も出るかもしれません。そのため、現在ではシートベルトを付けないと警報音が出てシートベルト着用を促す程度にとどめています。
 

  • 事例2 電子レンジ

電子レンジは、運転中に扉を開けても事故にならないように自動的に停止するようになっています。その結果停止ボタンを押さずにいきなり扉を開ける人が少なくありません。もし安全装置が故障していれば、大事故になってしまいます。
 
原因は、停止ボタンを押すことと扉を開けるという二つの動作を使用者が面倒と感じているためです。その結果、先に扉を開ければ停止ボタンを押さなくても済むことを学習します。最良の解決策は、停止ボタンを押すと自動的に扉が開くようにすることです。それができない場合は、停止ボタンを押さない限り扉が開かないように、インターロックをかけます。
 
対策 作業の中にショートカットはないですか
同様に作業順序を逆にしたり、やり方を変えると今までよりも楽にできる作業があると、誰かがそのやり方を始めます。しかし、そのやり方で問題ないかどうかきちんと検証しないと不良や事故が起きかねません。
 
この時、違うやり方をしようとする作業者を叱ったり、規則で縛っても「裏技」と称してこっそりやってしまいます。むしろこの違うやり方を作業者から改善提案として提出させ、それを皆で検証します。その結果、問題がなければ、そのやり方に変えてしまった方が作業者の意欲が高まり、生産性も向上します。
 

3.あせり

時間やノルマに追われていると、ミスや事故が生じやすくなります。
これは「時間を守る」、「ノルマを達成する」ことが優先され、「正しい手順で行う」、「安全を確認する」などの行為がおろそかになるためです。
 
例えば、時間決め配達では正確に配達することを厳守すると、時間に遅れた時に安全確認を省略したり、制限速度を超えて走行したりします。しかしその結果事故を起こせば、遅れはもっとひどくなってしまいます。

時間に追われると
図1 時間に追われると
 
同様に生産性向上のため、作業速度を優先するように管理すると、作業者は遅れないように正規の手順を無視したり、確認を省略するようになります。その結果不良が発生します。

ミスのない作業には、適度な緊張感のある「遅くはないが、慌てないペース」が理想です。
 
一方急な受注や不良品のため特急作業が生じると、作業者は自然と急いで作業します。

この場合、管理者は品質第一と考えて、「慌てるな!ミスをして後戻りするより、ゆっくりでも確実に作業した方が早い」作業者にと言い聞かせます。
 

4.マニュアルの形骸化

作業指示書やマニュアルにどうしてそのやり方になったのか、根拠や理由が書かれていないと、その作業に対する理解が浅く、何も考えずに書いてあることを守るだけになってしまい、徐々に形骸化し守らなくなります。

 

  • マニュアルの問題

マニュアルがわかりにくいために、作業者が勝手に解釈をしてミスが起きる場合があります。人に何かをさせるときに、言葉で全てを説明するのは容易ではありません。そこで、図などの視覚表現を併用して表現します。しかし作業を熟知したベテランが作成したマニュアルは、初めて作業に取り組む者には不親切でわかりにくいことがあります。
 
対策
そこでベテランや監督者が一方的に作るのではなく、多くの作業者検討しながら作成します。完成したマニュアルを新人教育に使用し、初心者でも問題なく使用できるか検証することもよい方法です。
 
一方、安全遵守事項や、ねじ締め、溶接などの基本作業は、各職場で異なるものを作るのではなく、どこの職場でも使用できるものを作成し、共用した方が作業者にとっては戸惑いがなくなります。
 

  • 事例 作業指示書・マニュアルのデメリットと形骸化

時間の経過と共に作業指示書・マニュアルの経緯を知る人がいなくなり、作業手順書・マニュアル以外のことを「試してはいけない、考えても行けない」という融通の利かない運用になってしまいます。これを防ぐためには作業手順書・マニュアルは、「守るためのものだが、されど変えるためにもある」と考え、定期的に見直しを図ります。
 
対策 理由や根拠を書いておく
作業手順書・マニュアルにその方法を決めた根拠や理由を追記します。同様にNCプログラムや加工図を作成した時も、そのやり方を決めた理由を記録します。

その結果、後日工程や加工図を変更する際に、以前どのように決めたのか理由を確認でき、変えてはいけないところを変えて問題が生じることを防ぐことができます。これを裏図面と呼ぶ場合もあり、暗黙知の形式知化と言えます。
 


次の行動ミス「できない」は以下から入れます。
できない
 
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