判断ミスによるヒューマンエラーの種類

判断ミスによるヒューマンエラーとは、
対象を適切に認識したのにもかかわらず判断を誤ってしまう場合です。
 
その具体的な要因と対策を以下にまとめました。

内容 対策
1.先入観・思い込みにとらわれる  判断基準の明確、記録による抑制
2.決定プロセスが複雑  単純化する
3.認知的葛藤  表示の変更
4.プロセスが感覚と違う  表示・手順の見直し
5.複数の作業を同時に行う  順番に行う

 

以下に具体的に紹介します。

1.先入観・思い込みにとらわれる

人は状況を判断する際に、自らの経験や知識に基づいて行います。しかしこの経験や知識が正しいとは限りません。場合によっては、間違った知識や、経験を異なった解釈をしてしまい、先入観や思い込みにとらわれることもあります。

また経験や知識が不足している場合は、直感によって判断します。
しかしこの直感が正しくない場合があります。

その結果、AをBと判断する「思い込み」が生じてしまいます。

  • 例 物体の落ちる方向

感覚的にはこうであると思っていたことが実は違っていたということが、
物理学などでよくあります。その場合、先入観や思い込みにとらわれて正しい答えを見つけることができなくなります。

下図のように走っている子が、落としたバトンの軌跡はどうなるでしょうか。

多くの人がCのように後方に落下したと考えます。

しかし正しくはAのように前方に弧を描いて落ちます。

この問題は物理学専攻の学生でも間違えるので、「まっすぐ落下効果」という名前までついています。ボストンの小学生に同様の問題を出したところ、正解はわずか3%でした。

バトンの落ちる方向は
図1 バトンの落ちる方向は
 

  • 例 正しい答えを見つけられない謎

「思い込み」にとらわれると、正しい答えを見つけにくい例です。
右図で4本の直線を一筆書きでつなげて、全ての点を通過してみてください。
(正解は当ページの一番下にあります。)

正しい答えを見つけるには
図2 正しい答えを見つけるには
 
対策 判断基準の明確化

作業中の判断基準があいまいで作業者任せになっている場合があります。その結果作業者の「思い込み」により誤った判断をしてしまいます。あるいは「思い込み」や「直感」は作業者によって大きく異なります。
 
その結果、人により判断結果が異なってしまいます。

そこで判断の基準を決め、紙に明記して「思い込み」によるエラーを減らします。

 
チェックシートの活用

確認すべきポイントや確認内容の抽出を特定の作業者に任せると、その作業者の過去の経験から、見方が一面的になり、偏ることがあります。

そこで確認すべき内容を複数のメンバーで確認し、決定します。その結果をチェックシートに表すことで確認の漏れを防ぐことができます。

また、FMEA(故障モード解析)や特性要因図などのツールを使うのも良い方法です。

 
専門家の誤謬

専門家は専門分野では多くの知識があります。
逆に専門知識にとらわれ、一方的な見方をしてしまう場合があります。
軍事の専門家「軍人」について、「軍人はいつも過去の戦いに備えようとしている」という警句があります。

  • 事例 欧米でも艦隊決戦重視だった

太平洋戦争で日本は世界最大の戦艦「大和」を建造しました。それは日露戦争の日本海海戦で、ロシアを破った艦隊決戦の経験から、強力な戦艦こそが最も重要と考えていたからです。

しかし時代は航空機が優勢になり、大和は一度も艦隊決戦を行うことなく、航空機の攻撃により沈没しました。

実は日本だけでなく、欧米でも艦隊決戦重視でした。

それは第1次大戦で英独戦艦が艦隊決戦をくり広げたジュットランド海戦をモデルとしていました。そしてアメリカやイギリスは、艦隊決戦のために大型の戦艦の建造を進めていたのです。

 

  • 事例 アフガニスタン戦争は長期化する

2001年のアフガニスタン戦争において、多くの軍事評論家は戦争の長期膠着化を予想しました。

1979年のソ連のアフガニスタン侵攻の例や、当時戦った旧ソ連軍の将校の発言などから、多くの軍事評論家はタリバン兵の強さを強調しました。そしてアメリカはベトナム戦争と同様の泥沼状態に陥ると多くの軍事評論家は予想しました。

実際は開戦約1か月で首都カブールは陥落しました。そしてタリバンが敗北すると、多くの軍事評論家が今度は
「なぜタリバンが敗北したのか」について、様々な解説を行いました。

 
対策 記録による抑制

物事を決定をする際に、「どうしてそう決定したのか」理由を記録します。

理由を記録することで、自分の判断が正しいかどうか、感情を捨てて冷静に省みるようになります。自分の考えを説明し、他の可能性を認めるだけでより安全な決定を下すようになります。

業務の中で自分が決定した理由を紙に書いたり、測定結果をチェックシートに記入することは、自らが行ったことを再認識する効果があります。

 

  • 事例 記録の効果

帝王切開での出産は、医師にとって計画的に出産できる反面、妊婦の身体の負担や手術のリスクが生じます。
ある産院の産婦人科医達に
「どうして自然分娩でなく帝王切開を選んだのか」という
簡単な質問をし、決して非難せずにその理由を自由に答えてもらいました。

その結果、帝王切開を選択する医師の割合は、25%→10%に減少しました。

 
ポイント1 理由を記録

様々な業務を遂行する際に、書類に「なぜ」と理由を書くことで、
「どうしてその作業を行うのか」
自分に問いかけることになります。
その結果、よく考えれば不要な業務や、リスクの高い業務をやろうとしていることに気づきます。

 
ポイント2 名入れ

職人は自分の作品に名前を入れることで、自分の仕事に責任と誇りを持ちます。
工業製品でも同様に製品に添付される検査記録や書類に、作業者の名前(できればフルネーム)を入れる場合があります。その結果、責任感が増し、ミスを減らすことができます。

 
ポイント3 リマインダー効果

運輸業界では重大な事故に対し、事故の記憶が関係者から薄れ、安全意識が低下しないように、事故の資料や現物を保存し、安全意識を高めています。(リマインダー効果)

同様に工場では不良品の現物を現場に展示し、作業者に常に見せることで再発を防止します。(トヨタ生産方式では、これを「さらし首」と呼んでいます。)

よく不良報告書を現場に掲示しますが、現物の方がより説得力があります。

さらし首?
図3 さらし首?
 

2.決定プロセスが複雑

例えば、
「Aが白、Bが黒ならば、Cをする」
「A,B,C,Dの中から2つを選択する」
のように、複雑な判断のプロセスはミスが生じやすくなります。また判断に時間もかかります。

 

  • 事例 高速道路の分岐

高速道路の分岐では判断ミスをして行き過ぎてしまうと取り返しがつきません。また3択4択のように選択肢が多いと、ドライバーが迷い思わぬ事故を誘発します。そのため高速道路は安全に選択できるような科学的な手法が確立されています。(その割には「わかりにくい」と言われるかもしれませんが。)

  1. 分岐の手前で予告を出し、ドライバーに心の準備をさせる
  2. 分岐は必ず2択にする

ドライバーに事前に知識がなくても、次々と現れる表示に従って分岐先を判断すれば、目的地に行くことができるようになっています。


図4 高速道路の案内表示
 
対策 2択にする

作業中、前述のように複雑な論理条件や、3択4択になっているところは見直し、2択の連続にします。

 

3.認知的不協和

「左手で右側のボタンを押す」
「レバーを上げると、品物が下がる」
というように表示と実際の動作の向きがずれると、頭の中の情報処理が錯綜し葛藤が生じてしまいます。これを「認知的不協和」といい、このような作業はミスを誘発します。

扉などは、人の動作と扉の動作を同じ方向にした方が自然です。非常口は扉を押して出るようにしておかないと、パニックになった人は扉を「引くと開く」ことに気づかず出られなくなってしまいます。

  • 事例 認知的不協和の例
  •  

認知的不協和の例
図5 認知的不協和の例
 
非常口はどっち
図6 非常口はどっち?
 

4.プロセスが感覚と違う

今までの慣習や経験から、多くの人が「こうである」と思っているプロセスと異なると事故が起きやすくなります。

 

  • 事例 時差式信号機

時差式信号機
図7 時差式信号機

時差式信号機は、渋滞を解消するために自分の車線が赤に変わっても、対向車線がしばらく青のままになっています。しかし運転者にはそのことがわからず、右折を始めるため事故が多発しました。

現在は直進、右折、左折を全て矢印で表示し、対向車線が青の時は右折できないように変わりました。
 
対策 工程順の見直し
製造現場の中には、設備の制約から品物が工程間を行ったり来たりする場合があります。その結果、品物の流れが滞ったり、工程を飛ばしてしまいます。

設備の配置や工程の振り分けを見直し、工程の進む方向と物の流れを一致させます。
工程順通りに配置していないと
図8 工程順通りに配置していないと
 

5.複数の作業を同時に行う

人は複数の作業を同時に行うと、
どちらかの作業に意識が集中し、もう一方が無視されてしまいます。

 

  • 事例 ランプがつかない

1972年イースタン航空401便のロフト機長は、マイアミ国際空港へ着陸態勢に入った時、着陸装置を下ろしたのに 表示灯がつかないことに気づきました。そこで旋回して高度600メートルで水平飛行に移り、副操縦士が調査しました。たまたまボーイング社の整備士がコックピットにいたので調べさせました。

そして調査に夢中になっているうちに誰も操縦していない状態になっていました。機体は高度がどんどん下がってしまい、エブァーグレーズの湿地に突っ込み、ロフト機長を含む99人が死亡しました。
 
「これはどうなっているんだ。」
これが機長の最後の言葉でした。

この制御された飛行からの墜落ControlledFlightintoTerrain(CFIT)は、いまだに飛行機事故の最も致命的な要因で、事故原因の40%を占めています。

 
対策 机の配置が悪く複数作業が同時進行
ある会社は、顧客からの書類の内容をコンピュータに入力、顧客に応答書類を送り返す業務を行っています。

そこでは書類を置き忘れる、別の案件の書類が混入する、間違った書類を送るというミスが多発していました。仕事量が多く、全員一生懸命作業していましたが、ヒューマンエラーがいつ起こっても不思議でない状況でした。
 
原因は、机の配置が悪く書類が行ったり来たりするためでした。

そのため一つの書類が完了する前に他の書類の処理が始まり、複数作業が同時進行していました。机の配置を見直し、書類の流れを一方向にした結果、業務の混乱が大幅に解消しました。
書類の流れが悪いと
図9 書類の流れが悪いと
 

1.の正解

前出の問題の正解です。

正解

図10 正解
 


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スリップ
 
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